生活習慣病を予防するライフスタイルのヒント
「今この記事を読んでいる」「健康に対する関心の高い方」であれば、健康を意識して、ライフスタイルの改善に取り組んだ経験があると思います。
でも、健康診断をきっかけにジムに入会したり、ランチを外食からお弁当に替えたりしても、それを長く続けるのってなかなか難しいですよね。無理に好きなものを我慢すると、そのストレスが原因で不調をきたすこともあります。
この記事では、食事や運動をはじめとするライフスタイルと生活習慣病の関係性、今日から無理なく始められる「ライフスタイル改善のコツ」などについて紹介します。これらを理解し、実践することで、日々のQOL向上も期待できます。
この記事の目次
生活習慣病について知ろう
「生活習慣病」とは
「食習慣・運動習慣・休養・喫煙・飲酒などの生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」のことを指します。
日本の三大死因である「がん」、「脳血管疾患」、「心疾患」、さらにこれらのリスクを高める「動脈硬化症」、「2型糖尿病」、「高血圧症」、「脂質異常症」などはどれも生活習慣病です。
生活習慣病の初期には自覚症状がないことが多いです。また、生活習慣や環境因子が組み合わさって起こり、完全に治癒しないこともあります。さらに、1つの疾患から二次的な障害が起こるため、複数の疾患を併せ持つことが多い、という特徴があります。
近年では、発症してから早期に治療する「二次予防」よりも、検診などを行い、発症しないようにする「一次予防」に重点を置いた保健活動が行われています。
生活習慣はあなたにどんな影響を与えている?
具体的に、どんな習慣が体に影響を与え、疾患と関連しているのか、主なものをいくつか紹介します。
生活習慣 | 起こりうる主な病気 | 望ましい生活習慣 |
エネルギーの摂りすぎ | ・肥満 ・糖尿病 ・心臓病 など |
必要エネルギー量 65歳未満の健康な成人男性:2,200~3,050kcal/日 65歳未満の健康な成人女性:1,650~2,350kcal/日 ※必要エネルギー量は1日の活動量や年齢によってそれぞれ異なる。 ※エネルギー比率の目標値は1日の必要エネルギー量に対して炭水化物が55~60%、脂質が20~25%、たんぱく質が15~20%程度に設定されている。 |
塩分の摂りすぎ | ・高血圧 ・動脈硬化 ・心臓病 ・胃がん ・脳血管疾患 など |
塩分の摂取目標量 健康な成人男性:8.0g未満/日 健康な成人女性:7.0g未満/日 ※カップヌードル1食あたり5.2gの塩分が含まれている。 |
脂質の摂りすぎ | ・肥満 ・糖尿病 ・脂質異常症 ・心臓病 ・脂肪肝 ・胆石症 ・膵炎 ・胆道がん ・膵がん など |
脂質の摂取目標量 男女ともに必要エネルギー量の20~25%程度※そのうち飽和脂肪酸は必要エネルギー量の7%以下。 |
ビタミン/ミネラル /食物繊維の不足 |
・がん ・骨粗しょう症 ・貧血 など |
カリウム摂取目標量 男性:3,000㎎/日、女性:2,600mg/日 カルシウム摂取推奨量 男性:650~800㎎/日、女性:650㎎/日 食物繊維摂取目標量 男性:20g/日、女性:18g/日 ※適度なカリウム摂取は血圧低下作用があり、高血圧予防につながる。 |
運動不足 | ・虚血性心疾患 ・脳梗塞 ・骨粗しょう症 など |
必要運動量 歩行と同等以上の身体活動を毎日60分以上(週に23メッツ・時※以上) 身体活動のうち、息が弾み、汗をかく程度の運動を週に60分以上(4メッツ・時※以上) |
大量・長期の飲酒 | ・肝硬変 ・がん ・認知症 ・痛風 ・糖尿病 ・高脂血症 など |
アルコール摂取目標量 通常のアルコール代謝能を有する日本人において、純アルコール20g/日程度まで ※週に2日休肝日を設けること。 ※20gとは大体「ビール中ビン1本」、「日本酒1合」、「アルコール7%の350ml缶チューハイ1本」、「ウイスキーダブル1杯」程度。 |
喫煙 | ・慢性閉塞性肺疾患(COPD) ・脳血管疾患 ・がん ・骨粗しょう症 ・歯周病 など |
一切喫煙しない |
※メッツ・時(エクササイズ):運動の強さと量を表す単位として「メッツ」を使い、それに実施時間をかけたものが「メッツ・時」です。普通歩行が3メッツなので、1時間行うと、3メッツ×1時間=3メッツ・時(エクササイズ)となります。
食事
食事は、生活習慣病の予防にとても重要です。
たとえば、塩分の摂りすぎは体中を流れている血液の量を増やします。すると、心臓は一度に強い力でより多くの血液を体に送らなければいけないため、血圧が上がります。
血圧が高い状態が続くと、血管は常にピンと張った状態になり、次第に厚く、硬くなります。これが「動脈硬化」です。
血管が厚くなると、脳の細い血管がさらに細くなり、詰まってしまう「脳梗塞(ラクナ梗塞)」や、心臓の血管が詰まる「心筋梗塞」、心臓を動かすための血液が減って苦しくなる「狭心症」の原因になります。
血管の弾力性が失われると、心臓がこれまで以上に頑張って体に血液を送り出すことになり、負担が大きくなります。これにより血液を体に送り出す機能が低下して、「心不全」へと進行してしまう場合があります。
このように、塩分の摂りすぎは、心臓や血管の病気と深いかかわりがあることがわかります。また、血管は体中に栄養や酸素・水分・排泄物を運んでいるため、放置すると全身に影響が表れます。
運動
現代の社会人にとって、運動不足は深刻な問題です。特に、「心筋梗塞」や「狭心症」に代表される「虚血性心疾患」や、「脳梗塞」などの「動脈硬化と関連する疾患」の発症リスクを高めます。
また、加齢に伴う筋力の低下も問題です。加齢にともなって、人の筋肉は少なく、弱くなっていきます。
たとえば、80代の人が立ち上がる時に必要な筋肉量は、30代のおよそ半分であると言われています。
このことから、30代で階段を昇るのが辛いほど筋力が低下していると、80代になった時に、自力で階段を昇るのが難しくなる可能性が高いと考えられます。
出典:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-04-002.html
飲酒
アルコールも、生活習慣病と深いかかわりがあります。
アルコールの飲みすぎによる生活習慣病の中で、もっとも高頻度なものとして「肝臓病」があります。肝臓病は症状に気づきにくいため、気づいたときには「肝硬変」、「肝臓がん」へと進行している場合もあります。
アルコールは膵臓でも炎症を起こし、特に日常的にたくさん飲酒する方は「慢性膵炎」の状態へ進行していきます。
また、大量・長期の飲酒は「メタボリックシンドローム」の原因にもなります。
メタボリックシンドロームの要素として「肥満」、「高血圧」、「高脂血症」、「高血糖(糖尿病)」などがあげられています。それぞれの原因の1つに「お酒の飲みすぎ」があるのです。
アルコールの働きである「食欲が増すこと」、「中性脂肪が増えること」に加え、「一緒に摂取するおつまみが脂っこい、しょっぱいこと」がメタボリックシンドロームにつながります。
「糖尿病」は膵臓から出る血糖値を下げる働きのホルモンが減少したり、効きにくくなることで起こります。そのため、アルコールが原因の膵炎を繰り返すと、ホルモンを分泌する細胞が破壊され、糖尿病を発症します。
ほかにも、アルコールは「痛風」や様々な「がん」の原因になると言われており、摂取量や頻度には注意が必要です。
喫煙
喫煙と健康については、古くから多くの研究が行われています。
それらによれば、喫煙による影響として、消化管や呼吸器の「がん」をはじめ、動脈硬化・脳卒中などの「循環器疾患」、喘息などの「呼吸器疾患」、「歯周病」、「妊婦の喫煙による胎児への悪影響」が起こりやすくなると言われています。
また喫煙者だけでなく、副流煙による受動喫煙も、肺がん・脳卒中・乳幼児突然死症候群などと関連があります。
出典:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
正しい生活習慣で、QOLの向上が期待できる
QOLとは
QOLとは、Quality of Lifeのことで「生活の質」と訳します。これは肉体的、精神的、社会的、経済的すべてを含めた生活の質を意味します。
つまり、その人がどれだけ人間らしく、自分らしい生活を送り、幸福を見出しているかという尺度であり、様々な観点から測ることができます。
生き生きとした生活の基盤は正しい生活習慣から!
心理学者マズローによると、人間の欲求は5段階であると言われています。
これは「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である」という考えのもと、ひとつ下の欲求が満たされると、次の欲求を満たそうとする心理行動をとる、という考え方です。
これらの欲求を満たしていくためには、健康的な生活が必要不可欠です。
生活習慣病になると、高血圧の方は日常的な塩分の制限、腎臓病の方ではカリウムの制限など、好きなものを食べることができず、食事に関するストレスがかかると予想できます。
循環器疾患の方では、心臓への負担を軽減するために、排泄や入浴などの日常生活動作や就労に制限がかかることも考えられます。
最下層の欲求である、生理的欲求を自分で満たすことができないということは、精神的に大きな苦痛となります。また、最下層の欲求が満たせなければ、次の段階にステップアップできなくなってしまいます。
正しい生活習慣を実行することで、生活習慣病の発症を予防することができます。さらに、正しい生活習慣を続けていることは、自分の健康状態への自信となります。
また、「自分の様々な欲求を自分のタイミングで満たすことができる」、「自分の欲求をうまくコントロールできる」という自己コントロール感につながり、これらは長期的なQOLの向上に役立ちます。
健康的なライフスタイルのポイント
健康的なライフスタイルのポイントとして「ブレスローの7つの健康習慣」を紹介します。
これは、アメリカのブレスロー教授が生活習慣と身体的健康度との関係性を調査した結果から、世界中で知られるようになったものです。みなさんはいくつ実践できているでしょうか?
- 喫煙をしない
- 定期的に運動をする
- 飲酒は適量を守るか、しない
- 1日7~8時間の睡眠をとる
- 適正体重を維持する
- 朝食を食べる
- 間食をしない
今日からできる!ライフスタイル改善のコツ
ここまで紹介してきた規則正しい生活習慣は、どれも特別なことではありません。しかし、多くの人が、わかってはいるけど仕事・家事・育児・その他のことを優先してしまい、なかなか実行できないと感じることでもあります。
そういった方のために、今日から始められる、無理なく続けられそうな心がけをいくつか紹介します。
お弁当など調理済みの食品やお菓子などは栄養成分表示をよく見るようにする
栄養成分表示を見るだけでも、普段の食事の傾向やそれぞれの食品の特徴を大まかに把握することができます。市販の食品について知ることで、栄養バランスについて考えるクセがつきます。
味噌や醤油などの調味料を低塩・減塩のものに替える
健康な日本の成人の目標塩分摂取量は7~8g/日ですが、現状では男女ともに平均で2g程度上回っている状態です。
減塩と聞くと、おいしくないイメージがあるかもしれませんが、だしや酢、薬味、香辛料、コクが出る乳製品、旨味が増すお酒などを料理に使うことで、満足感が得られます。血圧が気になる方にオススメです。
毎日の歩数を確認するようにする
日常生活における歩数の目標値は、男性で9,200歩、女性で8,300歩と言われています。まずは、自分の運動量がどの程度なのかということを確認することから始めましょう。
そして、「速く歩くこと」、「大股で歩くこと」は消費カロリーを増やしてくれるので、普段から心がけてみましょう。
週に2日は休肝日を設ける
1日の飲酒量が適量以上で、毎日飲酒している人は、まず、一切飲まない休肝日を作りましょう。「職場の飲み会など、社交の都合で飲酒した翌日は飲まない」、「週末以外飲まない」など無理のない範囲でルールを決めてみましょう。
たばこを吸いたくなった時の対処法を考えてみる
禁煙を始めると「たばこが吸いたい!」という気持ちが湧いてきたり、眠くなったり、イライラしたり、離脱症状が長くて2週間程度続きます。これは1日中続くわけではなく、5分未満の衝動が1日に数回起こる、というものです。
そのため、たばこを吸いたい気持ちが湧いてきたときに、衝動をやり過ごすために行う「替わりの行動」を事前に決めておきます。
たとえば、食後にタバコを吸いたい衝動を感じたら歯を磨く、飲酒するとタバコを吸いたくなってしまう方は、替わりに冷たい水を飲むなどです。
効果がなければ、他の方法を実践してみましょう。
できることから始めよう
プロチャスカらによって提唱された「行動変容ステージモデル」によると、人が行動を変えるときは「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」と5つのステージを通ると考えられています。
このうち、この記事を読んでいるあなたは、「関心期」、「準備期」、「実行期」で行ったり来たり、ウロウロしている状態と考えられます。
健康に関する行動は、一気に変えようとするとなかなかうまくいかないものです。あまり気合を入れずに1つずつ始め、できそうな方法を続けてみてはいかがでしょうか?
なお、この記事は健康な成人を対象としています。
持病のある方や現在の健康状態に不安がある方は、まずは医師に相談してみましょう。