【経験則が判断ミスにつながる】ヒューリスティックとは
人は、脳への負荷を減らすため、少ない情報で判断しようとしたり、思い出しやすい情報で判断したりすることがあります。
このような時、人は「ヒューリスティック」を用いて考えています。
ヒューリスティックとは、自分の経験則に基づいて考えることです。
ヒューリスティックについての詳しい内容は、こちらの記事で紹介しています。
『【自分を客観視する】ヒューリスティックとアルゴリズムの違い』
ヒューリスティックは素早く意思決定ができ、脳のエネルギーを節約することができます。しかし、必ずしも適切な判断を下せるわけではありません。
適切な判断を下すためには、ヒューリスティックの種類・特徴を理解し、対策する必要があります。
人々が特に陥りやすい3種類のヒューリスティックの特徴と対策法について説明します。
ヒューリスティックを知り、判断ミスを減らしましょう。
ヒューリスティックで判断しがちな状況
人は、以下のようなときにヒューリスティックで判断しがちです。
- 問題をじっくり考える時間がない
- 情報が多すぎて処理しにくい
- 問題がそれほど重要ではない
- 意思決定に必要な知識や情報がほとんどない
ヒューリスティックの分類方法
ヒューリスティックは、どんな経験に基づいたかによって分類されます。
代表的なものは、次の3つです。
- 代表性ヒューリスティック
- 利用可能性ヒューリスティック
- 係留と調整ヒューリスティック
上記3つを例を用いて、詳しく説明します。
代表的なヒューリスティックとその具体例、対策方法
「代表性ヒューリスティック(Representative heuristic)」(少数の法則)
代表性ヒューリスティックとは、ステレオタイプ(代表的なイメージ)に基づき、判断することです。
代表性ヒューリスティックで判断した結果、陥ってしまうミスを「連言錯誤」と呼びます。連言錯誤とは、一般的に起こる状況よりも、ありがちだと思う状況を、事実と勘違いすることです。
具体例
代表性ヒューリスティックに関する具体例を紹介します。
- リンダ問題
- 日常場面での代表性ヒューリスティック
具体例1)リンダ問題
<問題>
リンダという女性がいます。
彼女は独身で、とても頭がよくはっきりとものをいう性格です。
学生時代、哲学を専攻していて、人種差別や民族差別などの社会問題に深くかかわっていました。
リンダの職業は次のどちらの可能性が高いでしょうか?
A)銀行の出納係
B)女性解放運動を行っている銀行の出納係
<解説>
この問題はBと答える人が多いようです。
しかし、論理的に考えれば、Aの可能性の方が高くなります。
なぜなら、Aの条件は「銀行の出納係」の1つだけですが、Bの条件は「銀行の出納係」、「女性解放運動を行っている」の2つだからです。
つまり、多くの人が基準となる確率を考えず、直感的に判断しています。この問題では、「どちらが、自分の中にあるリンダのイメージに近いか?」と考えた部分が代表性ヒューリスティックです。
具体例2)日常場面での代表性ヒューリスティック
日常場面での代表性ヒューリスティックを紹介します。
例1)外国人っぽい見た目の人は英語を話すだろう
外国人に見えるからといって外国人とは限りませんし、外国人全員が英語を話すわけではありません。
例2)A型だから几帳面、B型だからマイペース
血液型が正確に影響する科学的根拠は証明されていません。
例3)辛い食べ物は赤い
辛い食べ物が全て赤い色をしているとは限りません。
例えば、辛みが強いグリーンカレーは、世界一の辛さと称される青唐辛子を使っています。
対策方法
代表性ヒューリスティックだけで判断しないように「ステレオタイプ」を疑いましょう。
「利用可能性ヒューリスティック(Availability heuristic)」(利用しやすさの法則)
利用可能性ヒューリスティックとは、思い出しやすい情報(経験)に基づき、判断することです。特に、以下のような要因で利用可能性ヒューリスティックが起こります。
要因 | 要因の具体例 |
---|---|
頻繁に接しているもの | 習慣的行動、よく目にする広告 |
個人的に関りのあること | 自分の体験や周囲に起こった出来事、生年月日 |
インパクトのある出来事 | 衝撃的なニュース |
具体性があるもの | 友人やウェブサイトの口コミ |
具体例
利用可能性ヒューリスティックに関する具体例を紹介します。
- コンビニと歯科医院の数問題
- 日常場面での利用可能性ヒューリスティック
具体例1)コンビニと歯科医院の数問題
<問題>
日本で、数を比べたとき、数が多いのはどちらでしょうか?
A)コンビニ
B)歯科医院
<解説>
この問題は、Aの「コンビニ」と答える人が多いようです。
しかし、実際はBの「歯科医院」の方が多いです。
「コンビニ」の方が「歯科医院」よりも利用頻度が高く、頭の中に浮かんできやすいため、「コンビニ」と答える人が多くなります。
このように「想像のしやすさ」が「数」に影響を与えることがあります。
この問題では、「どちらの方が、すぐに思い出しやすいか?」と考えた部分が利用可能性ヒューリスティックです。
具体例2)常場面での利用可能性ヒューリスティック
日常場面では以下のようなものが利用可能性ヒューリスティックです。
要因の具体例 | 利用可能性ヒューリスティックを使った判断例 |
---|---|
習慣的行動、よく目にする広告 | いつも同じ旅行会社を利用する |
自分の体験や周囲に起こった 出来事、生年月日 |
名前や誕生日など、思い出しやすい文字列をパスワードに設定する |
衝撃的なニュース | 飛行機事故の衝撃的なニュースを見たので、飛行機は危険だと思い、乗らない |
友人やウェブサイトの口コミ | どこで食事をするか決めるとき、インターネット上の口コミサイトを確認し、評価の高い店を選ぶ |
対策方法
利用可能性ヒューリスティックだけで判断しないために「情報収集」に手間をかけましょう。
「係留と調整ヒューリスティック( Adjustment anchoring)」
係留と調整ヒューリスティックとは、最初に得た情報に基づいて判断することです。
固着性ヒューリスティックと表現されることもあります。
英語ではAdjustment anchoring(アジャストメント・アンカリング)とあらわされます。アンカリングとは、最初に見たり聞いたりしたものに影響を受けることです。
海底に沈めて船を固定する「アンカー(いかり)」が由来です。
アジャストメントとは、最初の情報を基準に設定して、その後の情報を調整しながら最終的な判断を決めることです。
具体例
係留と調整ヒューリスティックに関する具体例を紹介します。
- 商品の価値問題
- 日常場面での係留と調整ヒューリスティック
具体例1)商品の価値問題
A)定価10万円の冷蔵庫
B)定価15万円の冷蔵庫が今だけ特別価格10万円
この問題はBと答える人が多いようです。
このように最初に提示された情報(数字や特徴など)が強く印象に残って、その後の意思決定に影響を与えることがあります。
この問題では、「もともと15万円の商品の方が価値が高いのでは?」と考えた部分が係留と調整ヒューリスティックです。
具体例2)日常場面での係留と調整ヒューリスティック
例1)おひとり様○個まで
スーパーで、「おひとり様○個まで」と書かれていると、つい、書かれている個数分取ってしまいませんか。
例2)ニュース番組の占い
朝、ニュース番組で「あなたは今日運命の人と出会うかも」と言われたら、たまたま親切にしてくれた異性を運命の人と思ってしまうかもしれません。
対策方法
係留と調整ヒューリスティックだけで判断しないように、「最初に見たり聞いたりしたもの」に影響を受けていないか、注意しましょう。
まとめ
ヒューリスティックの代表的なものと対策方法を覚えておきましょう。
判断ミスを防ぐのに役立ちます。
ヒューリスティックの種類 | 対策方法 |
---|---|
代表性ヒューリスティック | ステレオタイプを疑う。 |
利用可能性ヒューリスティック | 情報収集に手間をかける。 |
係留と調整ヒューリスティック | 最初に見たり聞いたりしたものに影響を受けていないか、注意する。 |