ヴィーガンってほんとに健康的?メリット・デメリットを調べてみた
最近よく耳にするヴィーガン。
健康的な食生活を意識して生活にヴィーガンを取り入れている方も多く見かけます。
海外ではあのビヨンセもヴィーガンを取り入れたダイエット「22日間ヴィーガンダイエット」で体系の維持をしていることで有名です。
日本でも徐々にヴィーガンが普及している中、ベジタリアンと何が違うの?という疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
今回はヴィーガンとは一体何なのか、本当に健康にいいのか、調べてみたのでぜひ参考にしてください。
この記事の目次
ヴィーガンとベジタリアン
紀元前より宗教的・道徳的な理由から菜食主義という考えは存在していましたが、ベジタリアンという言葉が使われ始めたのは19世紀頃。
現在では「ベジタリアン=菜食主義=動物の肉を食べない人」という認識が一般的ですが、当時は「動物性食品の摂取だけではなく、動物性製品の使用も避ける人々」を指す言葉として使われていました。
1944年には酪農製品を摂取しないベジタリアンを表す言葉としてヴィーガンが誕生し、現在は「完全菜食主義者をヴィーガンと呼び、ベジタリアンとはそれ以外の、卵や乳製品の摂取を必ずしも避けない人々」を指します。
Wikipediaのヴィーガニズムの記事を読むと、ヴィーガンとダイエタリー・ヴィーガンの2種類ではなく、ヴィーガニズムという様式が更にエシカル・ヴィーガニズム、ダイエタリー・ヴィーガニズム、エンバイロメンタル・ヴィーガニズムというスタイルに細分化されているようです。
オリエンタルベジタリアンが口にしない五葷とは?
>オリエンタルベジタリアンは野菜の中でも五葷(ごくん)は口にしないと紹介しました。
葷とは匂いの強い野菜を意味し、五葷とは主に「ネギ」「にんにく」「にら」「らっきょう」「あさつき」を指します。
インドの伝統的医学アーユルヴェーダにおいて、それらは精神のバランスを崩し不安定にする食べ物とされています。
現代では五葷は健康にいい食べ物とされていますが、アーユルヴェーダ的に言うと「食べた直後に興奮状態に陥り元気になったように見えるだけ」なのだそうです。
また、サンスクリット(インドなどで用いられた古代語)には非暴力を意味するアヒンサーという言葉があります。
古代インドに起源とする宗教において非常に重要な教義とされ、アヒンサーのもと動物に対する暴力、殺生が禁止されています。
アヒンサー・アーユルヴェーダの観点から、インドを起源とする宗教を信仰する人口が多いアジア圏のベジタリアンは、五葷を口にしない方が多いのでオリエンタルベジタリアンとして区分されるようになったようです。
仏教と三厭五葷
インドから派生した宗教のひとつである仏教にもアヒンサーは受け継がれています。
戒律に基づいて調理された精進料理において、避けるべきとされる食材のことを三厭五葷(さんえんごくん)と言い、三厭とは「獣」「魚」「鳥」を指します。
仏教において五葷は「煩悩を刺激し修行の妨げとなる食べ物」とされ、禅宗のお寺では入り口に「不許葷酒入山門(葷酒山門に入るを許さず)」と彫られた石柱が立っていることも。
ヴィーガンで健康になれるのか
では菜食を実施しているヴィーガンは健康なのか。
食生活をヴィーガンに切り替えた方の意見は「以前より体が軽い」「体臭がなくなった」「やせた」というポジティブなものから、「イライラしやすくなった」「免疫力が落ちた」というネガティブなものまでさまざま。
ヴィーガンが健康にどのような影響を与えるのか、実体験と研究結果からみていきたいと思います。
経験者の言葉からみるメリット・デメリット
メリット
2015年7月、42歳のマラソン選手スコット・ジュレクさんは、3489kmのアパラチアン・トレイルを、46日8時間で走破するという最速記録を更新。
彼はヴィーガンとしても有名な方で、記録更新した2015年には、肉・魚・乳製品などを口にしなくなって16年が経っていました。
「ヴィーガンになってからはトレーニング後の回復が早くなった」と語っています。
3489kmを46日ということは1日に約75km走った計算になり、睡眠時間は4~5時間程度だったそうです。
デメリット
アメリカ・カリフォルニア州出身のジョーダン・ヤンガーさんは、23歳の時に食生活をヴィーガンに切り替えました。
当初は体重も減り、体調もよく精神的にもとても安定していました。
しかし徐々に、「体力の低下」「抜け毛」「肌荒れなどの問題に悩まされるようになり、なんと「月経が半年もこない」という状態に。
危機感を覚えたジョーダンさんが少量のサーモンを口にするようになると、症状が緩和。
肉や魚もバランスよく食生活に取り入れるようになった現在では、以前のような健康を取り戻したようです。
研究結果からみるメリット・デメリット
日本ベジタリアン学会が刊行する学術誌「Vegetarian Research(ベジタリアンリサーチ)」に投稿された記事からいくつか参照したいと思います。
「玄米菜食者女子18名(平均年齢43.8±14.5歳)を対象に実施した研究」の結果、鉄・ビタミンB1 ・ナイアシン・食物繊維は所要量の80%以上充足していたが、その他の栄養素・エネルギー・タンパク質は顕著に低く、菜食者の44%がタンパク質必要量(0.7g/kg)を摂取できていなかった。
対象とした18名中、動物性食品を全く食べない菜食者は7名、その他はできるだけ食べないようにしている者である。
―――『玄米菜食者女子の栄養摂取と貧血について(渡部由美・鈴木英鷹)』Vegetarian Research Vol. 4, No.1, 9-15 (2003)より参照
75人の中高年日本人菜食者と、比較対象として98人の中高年日本人非菜食者を被験者とし、栄養素摂取量、身体・血液成績を調査した横断研究を実施。
菜食者は非菜食者と比較して、ビタミンDとビタミンB12の摂取量が有意に低値であったこと以外は生活習慣病予防の観点から良い栄養状態であったとした。
―――『日本人中高年菜食者の栄養状態の特徴(仲本桂子・渡邉早苗・工藤秀機・田中明)』Vegetarian Research Vol.9, 7-16 (2008)より参照
入念に献立されたビーガン、その他のベジタリアン食は全てのライフサイクルに適切で、炭水化物・食物繊維・マグネシウム・カリウム・葉酸、さらにビタミンC・ビタミンE・ファイトケミカルのような抗酸化物質を多く含むと同時に、飽和脂肪・コレステロールや動物性たんぱく質をほとんど含んでいないという利点があります。
ベジタリアンは、非ベジタリアンよりもBMI値が低く、そして虚血性心疾患による死亡率が低いと報告されています。また、血中コレステロール値や血圧も低く、高血圧症やII型糖尿病および前立腺がんや大腸がんにかかる率も低いことが示されています。
―――『[翻訳] ADAレポート ベジタリアン食に関するアメリカ・カナダ栄養士会の見解(2003)(仲本 桂子・清水 克博・深田 あすか(訳))』Vegetarian Research Vol.10, 1-20 (2009)より参照
ヴィーガンだけではなく、ベジタリアンも対象にしている研究が多いですが、ほとんどの研究結果でガンなどの生活習慣病の発症リスクが低く、BMIの値も低いという研究結果が見られました。
更に、計画的な菜食は全てのライフサイクルに適しているとも。
しかし反対に計画性のない菜食はたんぱく質やビタミン、エネルギーなどが不足しているという結果も。
メリット
- ガンや糖尿病などの生活習慣病を発症するリスクの低下
- 虚血性心疾患による死亡率の低下
- BMI値の低下
デメリット
- 植物性食品からの摂取が困難な栄養素の不足
- エネルギー不足
菜食による栄養素不足が招く不調
研究結果による菜食のデメリットに栄養素不足をあげました。
「玄米菜食者女子の栄養摂取と貧血について」ではたんぱく質不足が、「日本人中高年菜食者の栄養状態の特徴」からはビタミンD・ビタミンB12不足が結果として出ています。
これらの栄養素が不足することによって体にどのような不調が現れるのでしょうか。
たんぱく質
バランスの良い菜食は認知症や生活習慣病のリスク低下が期待できますが、計画性のない菜食によってたんぱく質不足に陥ると、体内の血清アルブミン値が低くなり、認知症の前段階である認知機能の低下を引き起こすリスクが2倍に、脳卒中・心臓病のリスクが2.5倍になってしまいます。
更にたんぱく質は体を作り出す栄養素です。
髪の毛や爪、肌もたんぱく質によって構成されています。
たんぱく質の不足は、抜け毛や肌荒れの原因となります。
先ほど紹介したジョーダン・ヤンガーさんが体験した抜け毛や肌荒れも、おそらくたんぱく質不足からくるものだと思われます。
ビタミンD
ビタミンDには骨を作るカルシウムの吸収を助ける働きがあります。
ビタミンDが不足すると、せっかく摂取したカルシウムが吸収されずに体外へ排出されてしまうことにより間接的にカルシウムの不足にもつながり、結果、骨粗しょう症になってしまいます。
更にビタミンDには免疫力を高める働きもあるので、不足することによって風邪やインフルエンザにかかりやすくなることも。
ビタミンB12
ビタミンb12は肉や貝類や卵など動物性食品に多く含まれており、不足するとビタミンb12欠乏症になってしまいます。
おもな症状は「貧血」・「疲労感」・「便秘」。
身体的な不調だけではなく、軽度のうつ症状や情緒不安なども見られます。
貧血は鉄分の不足による鉄欠乏性貧血が知られていますが、ビタミンB12不足によって引きおこる貧血は赤血球の異常や不足による悪性貧血というものです。
赤血球を作る際に必要なビタミンB12が不足することによって、体内で正常な赤血球が作られないことが原因です。
菜食による栄養素不足を補うことは可能か
たんぱく質
植物性食品の中にもたんぱく質を含んでいるものはたくさんあります。
しかし、動物性のものと比較するとグラム単位での含有量が少ない反面、カロリー単位での含有量は多いため、エネルギーも不足してしまいます。
植物性食品の中でも100gあたりのたんぱく質の含有量が多い納豆でも、100gに含まれるたんぱく質は16.5gです。
ささみの24.6gと比べるとその少なさは一目瞭然です。
納豆1パックを40gとした場合、含まれるたんぱく質は6.6g。
成人女性の1日当たりのたんぱく質の推奨摂取量は50gなので(運動量によって変わりますが、成人の場合は体重の1/100のたんぱく質の摂取が推奨されています)だいたい300gで推奨摂取量達成となります。
7パックで280g、1日3食とした場合1食で2パック以上食べることになるのであまり現実的ではありません。
納豆には菜食で不足しがちなミネラルも多く含まれているうえ、100gあたり200kcalと、植物性たんぱく質を多く含む豆腐などと比べてカロリー不足も補えるのですが、やはり植物性食品のみでたんぱく質を補おうとするのは非常に効率が悪いように思います。
植物性食品からたんぱく質を効率的に摂取するならソイプロテイン
植物性食品からたんぱく質を摂取するのは非常に効率が悪いということはお分かりいただけたと思います。
更に植物性食品から摂取したたんぱく質は動物性から摂取したものに比べて吸収率が低く、例え推奨摂取量分のたんぱく質を摂取できたとしても、ほとんどが体外に排出されてしまいます。
良質なたんぱく質の指標としてアミノ酸スコアというものがあります。
100に近いほど良質とされ、1985年には大豆のアミノ酸スコアは100と報告されています。
しかし良質なものを摂取しても吸収できなければ意味がありません。
1990年にはアミノ酸スコアに吸収率が加味されたPDCAAS(たんぱく質消化吸収率補正アミノ酸スコア)という評価方法が推奨されました。
スコア1.00を最高とし、植物性食品から摂取したたんぱく質の吸収量は0.69以下という結果に。
なぜ植物性食品はたんぱく質の吸収率が低いのか、それは人間が植物の細胞壁を構成するセルロースを消化する酵素を持っていないためです。
しかし、「卵」・「カゼイン」と並んで1.00の数値を示したのは「分離大豆たんぱく質(SPI)」。
分離大豆たんぱく質(SPI)とは
簡単に言うと大豆からたんぱく質を抽出したものなのですが、こちらがPDCAAS(たんぱく質消化吸収率補正アミノ酸スコア)では非常に高い数値を出しています。
「分離大豆たんぱく質 プロテイン ヴィーガン」で検索すると、ヴィーガン向けのプロテインがたくさん見つかるのでぜひ自分に合ったものを探してみてください。
ビタミンD
成人女性の1日のビタミンD摂取目安は5.5μg、耐容上限量が100μg。
日本人が口にすることの多い鮭からは、100gあたり15μgほど摂取することができ、他にもさんまやマグロなどの魚類に多く含まれています。
植物性食品でビタミンDを多く含むものにきくらげ(ゆで)があり、100gあたり8.8μgなので、1食で摂取目安量が達成できます。
ビタミンB12
肉類や魚介類に多く含まれるビタミンB12。
植物性食品では焼きのり100gあたり57.6μgほど含まれており、これは牛レバー100gあたりに含まれる52.8μgよりも多い数値です。
成人女性の1日当たりの摂取推奨量が2.4μgなので、4gたべれば達成することができます。
手巻きずしなどに使われる全形のり1枚で約3gなので1枚半で十分な摂取量となります。
まとめ
菜食者は様々な病気の発症リスクを下げる反面、管理がされていないと栄養やエネルギーが不足するというお話でしたが、それは非菜食にも言えることではないでしょうか。
非菜食であってもきちんと管理された食生活であれば病気の予防になりますし、反対に管理されていない食生活では栄養不足になってしまいます。
非菜食者の場合は動物性食品からエネルギーを摂取できるので、栄養過多の印象がありますが、DHAやビタミンなどの栄養素は摂取目安量に達していないという結果も見られます。
菜食でも非菜食でも栄養管理が出来ていなければ健康を損なってしまいます。
また、栄養素の摂取推奨量などは、個人差もあります。
同じ量を食べても太る方や栄養不足になる方がいるように、体内で使用する栄養素の量に差があったり、同じ食材でも消化吸収率に差ができたり。
菜食で成功しているのは、体質自体が動物性食品に含まれる栄養素をあまり必要としない方や、植物性食品の消化吸収が上手な方なのだと思いました。
ヴィーガンに興味を持って、これから始めようと思っている方は、自分が必要としている栄養素を把握して取り組んでいただけたらと思います。
その際も、急に完全菜食に移行するのではなく、徐々に動物性食品の摂取を減らす移行期間を設けて、体に負担をかけないようにしましょう。
少々長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。