改正される電気通信事業法と施行規則―消費者にはどのような影響が?
2023年12月27日から施行された改正電気通信事業法・電気通信事業法施行規則では、スマホの端末割引や、継続利用特典などに関する内容についての規制が変更されます。転売ヤーによる不正な転売対策として機能することが期待される改正法について、消費者に大きく影響しうる点を中心に解説します。
この記事の目次
改正の具体的な内容
電気通信事業法・電気通信事業法施行規則が2023年12月に改正・施行され、端末購入等における「利益の提供」の金額の規定などが変更されました。
まずは以下の表に、消費者に大きな影響がありそうな改正内容をまとめます。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
割引額 | 2万円まで | 原則4万円まで |
白ロム割 | 対象外 | 対象 |
継続利用割引 | 通信料金以外は規制対象外 | 通信料金以外も規制対象 |
これらについて、それぞれ詳細に解説していきます。
白ロム割も規制対象に
改正前の電気通信事業法では、回線契約を伴う端末の購入に対して、端末の割引額の上限を2万円と定めていました。
多くのユーザーは端末購入時に合わせて回線契約も行うため、それを前提とした設定となっていました。
しかしこの規定の場合、端末のみを単体で購入してから回線契約を別で行うという手続きを踏めば、端末割引額への規制がかかりません。
この、端末のみを契約して後からキャリアの回線契約を結ぶ方法を白ロム割と呼び、多くのキャリアがスマホ端末を1円とするなど、極端な値引きを行って販売していました。
通常どおり使用したいユーザーにとっては合算した割引額が大きくなるため、そこまでの問題はありません。
一方で、即時解約して端末を転売する、いわゆる「転売ヤー」が頻発することで、キャリアの利益を圧迫し、適正な市場競争を阻害していました。
今回の改正では白ロム割も規制対象となり、端末購入にかかる割引額に上限額を設けています。
これにより、過度な割引競争と転売ヤーの発生を抑制することが期待されます。
割引額は原則4万円までに上限アップ
従来は、端末と回線のセット契約で、最大2万円までの割引となっていました。
改正規則では、端末購入、または回線契約に伴う割引額上限が、以下の通りに設定されています。
- 4万円以下の端末:2万円
- 4万円~8万円:端末価格の50%
- 8万円以上:4万円
また、この価格上限には、端末自体への割引、利用料金の割引、通常よりも高値で下取することや、各種ポイント、商品券の贈与などが含まれています。
そのため、
・現在使用している端末の下取相場価格が1万円
・10万円の端末を購入
の場合、『端末割引4万円+下取1万円』などで5万円分が、常にユーザーの得られる最も良い条件となります。
もし上記条件で下取価格を2万円にアップした場合、下取相場価格より1万円高い下取額分だけ端末割引額から差し引いて、端末割引3万円とする必要があります。
また、キャリアが提携しているポイントのプレゼントがある場合は、端末割引額をさらに下げる必要があります。
これまでの白ロム割がなくなるほか、ポイント等に対する規制もキャリアに課されるようになります。
そのため、回線契約に伴う端末購入の最大割引額はアップしていますが、お得感はあまり感じられないかもしれません。
継続利用特典も規制対象内に
改正前は、契約時点において継続利用することで得られる割引を知らなかった場合など、必ずしもキャリアがユーザーを囲い込んでいるとは言い切れない状態に対しても、規制の対象となっていました。
具体的に言うと、あるユーザーの契約開始時には実施されていなかった長期契約特典が契約開始後に始まった場合が当てはまります。
この場合、その施策が始まる前の期間は「契約し続けていれば利益が得られる」とユーザーが思っているわけではありませんが、改正前では施策開始前の期間も規制対象として集計されていました。
これを踏まえ、改正案では、長期契約継続に関する施策の開始時点から長期契約継続に関する割引等を適用できるものとなっています。
また、割引等の特典については、「1年あたりの利益額が1ヶ月分の料金を超える範囲に設定してはいけない」とされています(電気通信事業法第27条の3の2、電気通信事業法施行規則第22条の2の17第6号)。
規制対象は「MNOキャリアとその子会社」
今回の改正において、料金等の規制がかかる対象は「MNOキャリアとその子会社」のみです。
※契約数が人口比4%(500万人)を超える独立系MVNOも対象となっていますが、2024年1月時点で対象となるキャリアがありません。
MNOキャリアは
- ドコモ
- au
- ソフトバンク
- 楽天
の4社であり、これらのキャリアでの端末割引や継続利用料金のあり方などが変わります。
一方で、MVNO、いわゆる格安SIMを提供しているキャリアや、メーカーによる端末割引は規制の対象外です。
特にメーカー割引に関しては、特定のキャリアにだけ出荷しているスマホメーカー側の判断で端末割引を行った場合、キャリアはそれに合わせて料金値下げを行えます。
また、特定のメーカーが提供元となるポイント付与サービスなども、規制の対象外です。
規制対象 | 規制対象外 | |
---|---|---|
キャリア | MNO(ドコモ、au、ソフトバンク、楽天、および各社の子会社) シェア率4%以上の独立系MVNO |
シェア率4%未満のMVNO |
端末割引を実施している企業 | キャリア 例)端末販売店が独自の判断で端末を値引きする、キャリアが施策として全店で一斉に端末を値引きする |
メーカー 例)スマホメーカーが期間限定セールとして自社製品の端末価格を値引きして端末販売店に卸す |
金銭的な価値のあるポイント | キャリアや店舗から付与されるもの 例)キャリアの判断によって端末購入者にポイントを付与する |
キャリアなど以外から付与されるもの 例)スマホメーカーが自社製品購入者に対してポイントを付与する |
以前の電気通信事業法改正時に各社が白ロム割という抜け道を生み出したように、新たな法規制の中でも、より安価にスマホ契約を提供しようとするMNOキャリアが現れるかもしれません。
消費者への影響は
最も大きな影響があると考えられるのは、端末を安価に購入することのみを目的としていた転売ヤーたちでしょう。
これからは白ロム割がなくなり、割引額・キャッシュバック額に大きな制限がつきました。
MVNOで販売している端末は、各社の独自規格のものであったり、型落ちのものであったりするケースも多く、安価に人気の新機種を持つのはかなり難しくなりました。
大手キャリアを利用していて2年程度のサイクルで機種を買い替える人にとっても、白ロム割がなくなるなど、経済的メリットは薄くなったかもしれません。
一方で、新規端末の割引額に規制がかかることで、かえって利用料金での価格競争・サービス品質向上がより重要視されることが期待されます。
そのため、長年同一端末を使い続ける人や、格安SIM利用者にとってはメリットを得やすい市場になると予想でき、ランニングコストを抑えやすくなるかもしれません。
もしスマホを安価に買い替えたい場合は、キャリア施策ではなく、メーカー施策で割引が入っている端末や、メーカーが提供しているポイントプレゼントキャンペーンなどの展開をチェックしてみてください。
また、MVNOへの乗り換えを検討してみるのもいいでしょう。
各キャリアの今後の動向にも注意を
電気通信事業法・電気通信事業法施行規則が改正されたことで、2023年12月以降、各大手キャリアは新規端末の販売価格割引について見直しています。
特に、従来は「法の抜け穴」であった白ロム割が規制されたことで、きわめて安価に端末を購入することは難しくなっています。
改正法の目的はMNO事業者(4大キャリア)への集中是正とMVNO事業者の育成ですが、MNO事業者も経営のために顧客の維持・確保は重要な課題ですから、何らかの割引施策を考え出すことが予想されます。
各キャリアの動向をチェックしながら、経済的メリットの大きい事業者、信頼性の高い事業者を選択することをおすすめします。